大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成6年(ワ)21727号 判決

原告

株式会社東京ユナイテッドテクノロジー

右代表者代表取締役

佐藤定男

右訴訟代理人弁護士

物部康雄

被告

株式会社住友銀行

右代表者代表取締役

臼井孝之

右訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田寿徳

竹内洋

馬瀬隆之

右訴訟復代理人弁護士

田子真也

主文

一  被告は、原告に対し金五七〇万四一八八円及びこれに対する平成六年九月一日から支払ずみまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、平成元年八月二四日藤興産株式会社(以下「藤興産」という。)に対し、次のとおり金員を貸し渡した。

(一) 貸付金元本

金三億五〇〇〇万円

(二) 貸付金利

年8.5パーセント

(三) 返済方法

平成三年八月二三日一括返済

(四) 遅延損害金

年三〇パーセント

2  後藤護は、右同日、右借入につき連帯保証をした。

3  藤興産は、平成三年五月三一日以降約定金利を支払わず、また元本の返済も行わないため、原告は、やむなく右貸付にかかる後藤護ほか一名が提供した担保不動産につき競売手続を申し立て、その配当等により右貸付金の一部を回収した。

4  原告は、藤興産及び後藤護に対し、貸付金残元本二億四五六一万二四〇九円及びこれに対する平成三年六月一日から支払ずみまで年三〇パーセントの割合による遅延損害金債権を有している。

5  後藤護は平成四年一一月一七日死亡し、その法定相続人は別紙相続関係図のとおりであるが、これら相続人は別紙相続放棄一覧表記載のとおり全員相続を放棄した。したがって後藤護の相続財産は法律上当然に相続財産法人となっている。

6  右相続財産法人の財産としては、故後藤護が被告の北新宿支店に有している五七〇万四一八八円の預金債権(以下「本件預金債権」という。)があるのみである。

7  原告は、平成六年八月二三日付け書面で、被告に対し同月末日までに本件預金を原告に払い戻すよう請求した。

8  よって、原告は被告に対し、債権者代位権に基づき、本件預金五七〇万四一八八円及びこれに対する弁済期の翌日である平成六年九月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1ないし4の事実は知らない。

(二) 同5の事実中、後藤護が平成四年一一月一七日に死亡したことは認め、その余は知らない。

(三) 同6の事実中、後藤護が死亡時に被告(北新宿支店扱い)に対し、五七〇万四一八八円の預金債権を有していたことは認め、その余の事実は知らない。

(四) 同7の事実は認める。

2  被告の主張

相続財産管理制度は、相続人不存在の相続財産を当然法人とすることによって(民法九五一条)、法律上の帰属主体を創設し、その管理を家庭裁判所の選任する相続財産管理人に委ねるものである(民法第九五二条)。相続財産の管理・清算は、専ら相続財産管理人に委ねられており、相続財産法人は相続人不存在の場合の相続財産を無主にしないための法技術上の全くの擬制である。相続財産法人は、相続財産管理人が選任されるまでは法人としての存在は観念的なものでしかなく、相続財産管理人が選任されて初めて相続財産の管理・清算が可能になるものである。この意味で、相続財産法人は相続財産管理人が選任されて初めて実在する法人となり、その法定代理人である相続財産管理人によって権利が行使されるのであって、それまでの間は相続財産法人は自ら権利を行使することができない。したがって、相続債権者は、相続財産管理人が選任されるまでの間、相続財産法人の権利を代位行使することは許されず、まず利害関係人として相続財産管理人の選任の請求を行うべきである(民法第九五一条一項)。

三  被告の主張に対する原告の反論

相続財産法人に対して債権者代位権の行使を許さないとする法文上の根拠はなく、相続財産管理人がいても相続財産法人に対し債権者代位権を行使することができる。法が相続人不存在の相続財産を当然に相続財産法人となるとしているのは、できる限り財産の散逸等を防ぎ、相続債権者の保護を図ろうとの趣旨とみるべきである。いったん相続財産法人が成立した以上すべての権利行使はその管理人をして行わせるべきであるとして、あたかも破産管財人と同視した理論で債権者代位権の行使を否定するのは論理の飛躍である。選任された相続財産管理人が債権者の公平な取扱を要請されているのは事の道理上当然にすぎず、これをもって破産管財人と同視することはできない。実質的にみても、相続財産管理人の選任手続をとっている間に被告が時効により預金の支払を免れる可能性も高い。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因について

1  いずれも成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二、証人井澤孝男の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証及び同証言によれば、請求原因1ないし4の事実が認められる。

2  請求原因5の事実中、後藤護が平成四年一一月一七日死亡したことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第四号証の一ないし五、第五号証の一、二によれば、後藤護の法定相続人は別紙相続関係図のとおりであり、これら相続人が別紙相続放棄一覧表記載のとおり全員相続を放棄したことが認められる。右事実によれば、後藤護の相続財産は相続人の不存在により相続財産法人となったことが認められる(民法第九五一条)。

3  請求原因6の事実中、後藤護が死亡時に本件預金債権を有していたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右相続財産法人の財産は右預金債権のみであることが認められる。

請求原因7の事実は当事者間に争いがない。

二 被告は、相続財産法人に属する権利の行使は相続財産管理人が行うこととされているので相続財産管理人が選任される前に債権者代位権に基づき相続財産に属する預金の払戻請求をすることは許されない旨主張する。しかしながら、相続財産管理人は相続財産法人の法定代理人であって、相続財産の帰属主体となるものではなく、債権者が相続財産に属する権利を代位行使する場合には、債権者は相続財産管理人に代位してその権利を行使するのではなく、相続財産に属する権利を代位行使するものであるから、右権利行使のためには相続財産法人が存在していれば足り、相続財産管理人の選任までは必要としないと言うべきである。したがって、被告の主張は失当である。

三  以上によれば、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官阿部正幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例